「亜空間」は,日常に,しかも目の前にあるのに見過ごされてしまう現象を表す,新しい概念です。
私たちは常に,刻一刻変化するおびただしい量の情報を,感覚器官を通して取り入れています。それらを脳が適切に処理した結果のごく一部を「意識」と呼ばれる小窓から覗くことによって,身の回りの世界を整合性のあるものとして捉えているようです。
だが,ふとした拍子に,いつもと異なる世界が顔を覗かせる瞬間があります。大抵はいとも簡単に無視されてしまうために,現れたその現象は記憶に残ることもなく消え去ってしまいます。
この「記憶に残らない現象」に着目できれば,意識が見落とす世界を楽しむことが出来るのです。今回展示する作品の迷路が表す空間で,そういった現象の一つを表現しました。
立体表現されたこの迷路では,矢印から入って出口まで角柱のチューブの中を辿ります。途中の交差点では,上下・左右・前後の6方向から進路を選び,三次元に曲がる試行錯誤を重ねて行きます。
この三次元に曲がる経路の形を単純化しようとする意識に対して,経路を彷徨った視線が捉えた不確定な空間,それが亜空間の現象です。
私たちは,予定通りに物事が進むことに安心感を覚えます。反面,波間に浮かぶ ボートに乗って,行き先を決めずに漂ってみたい気持ちになることもあります。この迷路では,不安定に曲がる道筋を彷徨うことによって,そのような浮遊感を体験することができます。
さまよい漂っている自分を発見することでしょう。