公園や広場でベンチに腰を掛け何気なく足元を見ると,下に敷かれたタイルが膝の辺りまで浮かび上がっていて驚かされたことはないでしょうか。それはまるで表面がタイル模様の空間に膝から下がすっぽり浸かっているようで,そこだけが切り離されて異次元にあるような感じがします。
これも自然になった立体視によるものですが,指を付き合わせたときに現れた楕円球の場合の「平行視」とは異なり,寄り目状態で見る「交差視」という見方です。例えば,右目が見ているタイルの右隣のタイルを左目が見ていて,それらが重ね合わされた像をとらえることになります。そのとき左右の視線は膝頭あたりで交わっていて,タイルはその高さに浮かび上がります。同じタイルが広く敷き詰めたれて繰り返し模様になっている場合,直接視線が向けられているタイルだけではなく,周囲のタイル全体が宙に浮き上がることになります。
交差視は寄り目ができないと見ることはできませんが,極端に目を鼻に寄せる必要はなく,ごく軽い寄り目状態が作れれば十分です。簡単にできる方法を紹介します。まず鏡の表面にマーカーで点を打つかごく小さな紙を貼るなどして目印を付けます。その目印が目と目のちょうど中間になるように顔を映し,目印を見つめます。そのとき鏡の中に映っている自分の目が目印のところで一つに重なっているのがわかると思います。これが交差視の状態です。目は3つ並んで見えますが,目印の所に現れた目だけを見るようにしてください。左右の目や顔の他の部分に視線を向けると交差視は簡単に崩れてしまいます。
平行視に比べて交差視はいったん成立すると像が崩れにくく,慣れてくるとその状態で浮き上がったタイルを見回すこともできます。また,浮き上がった模様に指を突っ込んだりして虚像と実体の奇妙な交わりを楽しむこともできます。
なお,交差視は,平行視が目をリラックスさせて見るのとは対照的で,目の筋肉を緊張させて見るため長時間見続けると目が疲れますので注意してください。