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スプーン

喫茶店などでは天井の照明の光がテーブルの上の皿や磨かれたスプーンに鮮明に映っているのに気が付くことがあります。コーヒーでも飲みながらくつろいだ気分でそれらの光を見つめていると,光が突然宙に浮かび上がり驚かされることがあります。

皿もスプーンも磨かれたものは内側の曲面が凹面鏡の役割をするので,離れたところにあるものは当然その面の手前に映ります。皿やスプーンが普通に置かれている状況ではその上方にある照明の方側に像は結ぶことになり浮かんで見えます。とは言っても,物を見るというとその表面を見るのが普通で,鏡に映った像を見るときに奥行きを少し意識することはあっても,手前に浮かんだ像を見るといった機会はほとんど無いために像が浮かんで見えるという現象はとらえにくいのかも知れません。 光が映る物で内に窪んだ曲面なら何でも光を浮かばせることができます。皿やスプーンや灰皿などの他にコーヒーなどの注がれた液体の表面で容器に触れて少し盛り上がっている部分なども凹面鏡の働きをします。

皿を例にとって具体的に見方を説明します。まず,皿を目の前に置き,凹んでいる部分で光っているところを見付けます。左右の目を交互に閉じてその光を見ると,光っている像の位置や形が左右でいくらか違っているのがわかると思います。皿の凹凸が複雑だったり,水滴や汚れが付いていたりする部分は像の位置や形が左右の目で極端に異なるので,そういったものは避け,左右の違いが比較的少なく輪郭の鮮明なものを選びます。その二つの像を交差視の要領で重ねるわけですが,像は必ず上に浮かぶので,皿の上数センチメートル程度のところに意識を集中させるようにしてください。像が重なった状態で少し我慢して見続けると光は皿の表面から離れて宙に浮かび上がります。この現象は左右の視線の交わる角度が小さい状態で見るので,像がうまく寄らない場合は,目と皿に映る光を結ぶ線上で皿から数センチメートル離れたあたりに鉛筆の先などを目印として置き,そこを見つめてみてください。

ホテルや結婚式場のロビーなどでは,たくさんの照明器具が天井や壁に取り付けられているので,皿などの凹面にはたくさんの光が映り一斉に浮かび上がるのを見ることができます。浮かんだ光は全体でドーム状の曲面を形成し小宇宙を思わせます。