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コード

眼帯をしたときは世界がいつもと違って平面的に見えるとよく言われます。でも,扉を細めに開けて外の様子を見るとき,片目でしか見えていないのに,そこに平面的な世界が広がっていると普通は思わないでしょう。そもそも日常生活であたりまえのように両目で見ているときでも,鼻の陰になっているところはいつも片目でしか見えていないのに,この部分だけ平面的だと思うこともありません。

片目をつむって無造作に置かれた電気のコードを見ると,見慣れた様子とはどこか違っていて,入り組んだコードの立体的な位置関係がうまく読み取れないのに気付きます。コードどうしの重なり具合や影の様子からある程度の推測は付くものの,両目を開けて確認してみるととんでもない見当違いの場合が多いのに驚かされます。どうやら私たちは普段の生活では,たとえ何かの陰になって片目でしか見えていない部分があっても,経験や常識を働かせて視界のすべてが立体的な様子をしているととらえているのではないでしょうか。ところが,もつれたコードなどでは,どの部分が手前でどの部分が後ろでなければいけないといった必然性がなく置かれ方の典型もないので,経験から推測することがほとんどできないために片目と両目で見え方に食い違いが生じてしまうことになるのでしょう。

こういった状態のコードの一部が鼻の陰になるようにして見るとどうなるでしょう。意識を集中して陰の部分を見続けると,そこはコードの上下関係がつかめない世界になっているのがわかります。そして,鼻の陰の部分のコードは平面的で,鼻の陰から外れた両目で見える部分は立体的と2つの状態が同時に見えます。

次の写真は立体視用に作ったもので,平行視で見ると,右半分が立体的になっていて普通に見るのとずいぶん様子が違っているのに対し,左半分は鼻の陰に相当し立体視の効果が見られません。


この現象は,鼻の陰になっている部分を平面的に見ようと心がけて注視する必要があります。そうしないと,すぐそばにある両目で見えている立体的な部分の現実性が影響して平面的な様相は簡単に抹殺されてしまいます。

この平面と立体が隣接している境界を少しずつずらして行くと,平面が立体に立体が平面に変化していく様子が楽しめます。また,鼻より葉書や本なのどの輪郭のくっきりした物を用いて視野の一部を覆うほうが,境界での変化を明瞭に見ることができます。