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掛け時計

夜,寝床に入り,薄暗い部屋の天井の豆ランプを見つめていると,その明かりに向かって周囲から暗闇が徐々に押し寄せてきて驚かされたことはないでしょうか。


額

瞬きをするとすぐに普通の状態に戻るので印象に残りにくいのかもしれませんが,これは目を開けて見ているのに見えないことがあるということに気付く比較的わかりやすい現象だと思います。


見えているはずなのに消える別の現象を紹介します。例えば,ソファーに腰をおろし正面の壁に掛かっている額の一点をじっと見つめ,同時に少し離れたところにある掛け時計に意識を集中すると,時計だけがふっと跡形もなく消え去ります。消えた部分は黒く塗りつぶされていたり,ぽっかり穴が空いていたりするのではなく,周囲の壁紙の模様でそれらしく埋められていて不自然な感じはしません。


この現象には少し集中力が必要になります。瞬きはもちろんのこと,ちらっとでも視線を動かすと消えかかっていたものが復活します。ですから,初めの内は,消そうとする対象として目立ちにくい小さな染みなどを選ぶことをお薦めします。基本的にはどんなものでも消すことができるのですが,慣れない間は光っているものや派手な色彩のものを完全に消し去るのは難しいと思います。消すために肝心なことは視線を動かさないことと消そうと決めたものを強く意識することです。意識しないと消えたかどうかもわかりません。

普段の生活では,いつも目の前には見慣れた世界が広がっていて,そのどの部分も視線を向ければ間違いなくそこにあることを確認できるので,視野の中に見えない部分があるとは思っても見ないでしよう。そう言った意味で,この現象は,「現象」の「ブラウン管」や「日記」の「ふとん」で紹介した内容と基本的に同じものですが,意識する(見る)ことによって初めて意識されない(見えていない)状況が存在するのを知ることができるという逆説的なおもしろさを持っています。

一見似ていますが,これは心理学の本などでよく紹介される盲点とはまったく異なる現象です。盲点による現象は特別な図などを用意しない限り起こらず,日常の生活で盲点の部分の像が欠けていることに気付くことはまずありません。私たちは網膜の盲点の部分も連続した世界としてとらえているようです。