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ブラインド

 細めに開けたブラインドの隙間を通して見る夜の町には,街灯や住宅の窓から漏れる明かりなどが点々と灯っています。明かりは顔を少し動かしただけでブラインドの羽の陰に隠れて消えたり隙間から現れて光ったりします。

 ブラインドの手前,数歩離れたところからこういった明かりをしばらくじっと見つめていると,窓の向こうで輝いていた光がいつの間にか室内に入り込んでいて驚かされることがあります。光は手を伸ばせば届くところに浮かんでいて,指で摘めそうな感じがします。

 気付きにくいことですが,顔はまっすぐにしているつもりでも,たいていの場合どちらかに傾いていて,左右の目の並び方は水平にはなっていません。ブラインドに対しても同様で,左右の目はブラインドの羽と平行ではなく,狭い羽の隙間から見える窓の向こうの光は片目でしか見えていないことがよくあります。これは左右の目を交互に閉じて見てみれば,どちらかの目には光が見えないことから簡単にわかります。

 片目でしか見えていない場合,こういった光の奥行きの情報は失われているので,そこまでの距離は定まらないことになります。それでは,光の位置は不安定に揺れているかというとそうではなく,周囲にある何かか心理的なものが影響するのでしょうが,適当な距離の所にしっかり止まって浮かんでいます。
 視野に不可解なものが現れると,私たちの脳はそれを無視したりこの単眼視の現象のように,強引に周囲と関連付けて位置を決めたりするようです。とらえている世界の整合性を常に保つようにするのが脳の重要な使命ですから,説明の付かないものはねじ曲げてでも取り込むくらいは平気でします。そして,その結果を意識することで,私たちは世界をいつも整ったものとして見ていることになっているようです。

 ブラインドだけでなく目の前にある物は何でも,その背後にあるものを単眼視の状態にします。ただし,見る者も隠す物も静止していないと,この現象はうまく見えません。例えば,ベンチに座って顔の前に持ち上げて読んでいるときの雑誌などは,その背後にあるものを片方の目からは見えない状態を作り出します。また,横断歩道で信号待ちをしているとき,すぐ側にある信号の支柱は向かいの通りの看板などを単眼視の状態にします。
 現象の現れ方はそのときの状況次第で様々ですが,このような例は身近にいくらでもあります。